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第1章 自閉症 当事者のエピソード

コラム「障がい」と「仕事」

当事者の視点で支援を考える
第1章 自閉症 当事者のエピソード

2024.01.22

働く障がい者と雇用側が困難を感じないこと

「障がい」は「障がい者」の中にあるのではなくて、その人と環境の折り合いがうまくつかないことで起こる困難だ、というのが私たちの見方です。

ですから「支援」とは、その折り合いの悪さを調整して、「障がい者」も「雇用側」もできるだけ困難を感じずに一緒に仕事ができる環境を作ることだと考えます。
たとえば車いすを使っている身体障がい者が階段に出会ったら、行きたいところに行けません。

すると違う階でその人と仕事をしたいと思っている同僚も困ります。

その障がい者の活躍の場は狭められ、その人の働きを活用する可能性があった会社も損をします。

こういうとき、「障がい」は「障がい者」にあるより、「階段」という環境にあったと考えられるわけです。

そんなふうに「目に見える障がい」については「環境」に働きかけることが支援である、という理解は今ではずいぶん浸透するようになりました。

ところが、「障がい」の中には、すぐには「目に見えない」理由で周囲との間に困難が生み出されてしまうタイプのものもあります。
その典型的なものとして「自閉症」があります。

定型発達者との間でコミュニケーションがうまくいかず、お互いに困難を感じてしまうことがよくあるのですが、でも「何が問題なのか」がよく見えないのです。

見えなければどう「環境」を調整していいかもわかりません。
そこでここではなぜそこで困難が起こるのか、ということ、そしてどういう調整が必要と考えられるのかということを考えてみたいと思います。ポイントは「当事者の視点」注目して、お互いの視点のずれを調整するということになります。

第1章 ある自閉症 当事者のエピソード

登校前いつものジャンパー

登校前の肌寒い朝の場面です。

少し遅く起きてしまった中学生の男の子がパジャマ姿で朝ご飯を食べていた時、友達が一緒に学校に行こうと誘いに来てくれました。

急いで着替えて出発しようとするのですが、いつも着ていっているジャンパーが見当たりません。
お母さんは寒い外で友達を待たせてはいけないと思い、別の上着を着るように言いましたが、その子は納得せず、結局迎えに来てくれた友達に先に行ってもらうことになりました。
※(大内雅登「当事者と周辺者の間」。大内・山本・渡辺編『自閉症を語りなおす』第三章p.129に紹介されたエピソードから)

さて、彼は自閉症ということで、お母さんは彼のことが理解できずに「どうしてみんなが待っているのに別のモノを着ていかないのだろう」と悩みますが、みなさんはどう思いますか❓

お母さんの想い-彼のこだわり

お母さんの気持ちはたぶんこんなことでしょう。
彼は最近朝遅く起き、ひとり遅れて登校することが多かったので、友達が迎えに来てくれたことはお母さんにはとてもうれしかったようです。

そんな友達のことを考えると、寒い外でまたせておくのは申し訳ないから、いつものジャンパーが見当たらなければ今日は別のモノを着て一緒に行けばいいはずです。

それがわざわざ迎えに来てくれた友達の気持ちに応えることにもなるでしょう。

ところが彼はいつものジャンパーに「こだわって」、その友達の気持ちを無視したように見えます。

自分のジャンパーへの「こだわり」を、友達への配慮より優先したように見えるわけです。

なんとも融通が利かない、自分本位の身勝手な人に見えてしまうでしょう。
もう少し言えば、そんな風に友達との関係を思って「別の服」とアドバイスしてくれたお母さんの気持ちも彼は全然わかってないように見えます。

実際、自閉症の人に対しては「こだわりが強い」とか「他人のことを考えることがむつかしい」といった「特徴」が語られることが多くあり、「困った特性」として周囲が悩むことが少なくありません。

友達が待っているからジャンパーを探す

では、彼は果たしてお母さんが「友達を待たせてはいけない」と心配していた気持ちがわからなかったのでしょうか❓

実はそうではないのです。

お母さんに相談された自閉当事者でもある支援スタッフの大内さんが彼に聞いてみます。  
 大内「友だちが待ってるから、別の着れんかったんよな。」
 「うん。それやったら、上着なしの方がましや。」
 大内「お母さんが友達を待たせてはならんと思っていたことはわかる❓」
 「わかる。」

さて、みなさんは彼の言っていることの意味が分かるでしょうか❓

また共感できるでしょうか❓

おかあさんもそれを聞いてちんぷんかんぷんだったようですし、私も分かりませんでした。

その意味についてはまたのちに説明することにして……

ということは、人の気持ちがわかるといわれる定型の私たちは、実は自閉系の彼の気持ちを分かる「能力」にかけていることになります。

だって大内さんはちゃんとそれがわかって彼とやり取りができているのですから、大内さんのほうがよほど共感性に優れていることになりますし、また彼もお母さんの言うことの意味を理解できていたわけです。

自閉系の人たちの世界を理解する力

よくシンプルに言われる「自閉の人は人の気持ちがわからない」という言い方は、実はこういう現実を見えなくしてしまいます。
確かに自閉の人が定型の人の気持ちがわからないことはよくあります。

でも逆に定型の側も自閉の人の気持ちがわからないことが多いのだと、こういうエピソードからも気づかされるのです。

その意味ではお互い様なのですね。

もしそうだとすると、自閉系の人への支援がうまくいかない場合、その原因は定型の話がわからない自閉の人にも、自閉の人の考え方がわからない定型の支援者にも、どちらにもあるのだということになりそうです。
少なくとも私は、自閉の人の世界を理解する力がなんと足りないのかと思い知らされることが繰り返されています。
ではどうやったらもう少しその世界を理解する力を養えるでしょうか❓

次回はそういう力を養うために渡辺忠温さん(発達支援研究所主席研究員)と大内雅登さん(同非常勤研究員・こどもサポート教室指導員)が開発してこられた「逆SST」という方法についてお話していきましょう。

SST=Social Skills Training 
対人関係などのスキルを身につけることによって、社会生活を円滑に営んでいくためのプログラムのこと。

参考文献(『自閉症を語りなおす』大内雅登「当事者と周辺者の間」。大内・山本・渡辺編第三章p.129に紹介されたエピソードから)

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筆者プロフィール

発達支援研究所所長 山本 登志哉

障がい者は「不完全な人」ではなく、「少数派の特性を持つ人」。

共生は多数派に合わせることではなく、特性を活かして一緒に生きること。
そこに生まれる困難を調整するのが支援。当事者と共にそんな模索を続けます。

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📢次回は1/29(月)「【当事者の視点で支援を考える】第2章 当事者の視点に迫るための逆SST」について掲載予定です

毎週、お会いできることを楽しみにしています。

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