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第2章 当事者の視点に迫るための逆SST

コラム「障がい」と「仕事」

当事者の視点で支援を考える
第2章 当事者の視点に迫るための逆SST

2024.01.29

それぞれの視点には“ずれ”がある

SSTとは

SSTという言葉を聞いたことがあるでしょうか。

支援者の間ではよく使われる言葉でSocial Skills Trainingの略です。つまり、世の中で生きていくのに必要なスキルを練習する、ということです。

たとえば朝最初に出会ったら「おはようございます」というのも、言ってみればそういうスキルになります。

もし挨拶をしなかったら、相手の人は「なんで自分を無視するんだろう」と気分を害したり、場合によって怒るかもしれませんし、関係が悪くなります。

世の中に溢れている「スキル」の存在

何気ないふるまいですが、私たちの社会にはそんな「スキル」がたくさん隠れていて、多くの人は特に意識することなくそのふるまいを身に自然に着けていきますし、もし身に着けられていなければ、一二度注意されればそれほど無理なくできるようになるでしょう。

でも、そういうスキルがなかなか身につかない人もいます。そういう人に意識的にスキルを身に着けてもらうのがSSTということになります。

このSSTは、もともとは精神障がいで苦しんでいた方が治療を継続しながらも社会に再び出ていくときに、世の中でどうふるまっていいかわからずに不安に感じたり困ったりする場面をとりあげて、ロールプレイのようにして実際にそこでどうふるまったらいいかを考えて演じながら、よりよいやり方をほかの人のアドバイスをもらいつつ見つけ出していくような形で始まりました。

SSTを行った療育支援スタッフの声

このSSTがいろんな支援の現場で応用されるようになり、発達障がい児の支援の現場でもよくつかわれるのですが、その時はプリントに場面が書かれていて、その時どうふるまったらいいかについていくつかの選択肢があり、そこから「正解」を選ぶような、とても簡略化されたものとなっていることが多いようです。

そういうSSTをやっている支援スタッフの方から、しばしば「子どもにSSTをやって、プリントでは正解できるんだけど、実際の場面ではうまくできないんです。どうしてなんでしょう?」と聞かれることがあります。

みなさんはどう思いますか?

頭でわかっている事と心で理解する事

これだけ見ると、「わかってるのにやろうとしない」と感じられるかもしれません。

けれどもそういう場合がないとは言えませんが、多くの場合はそうではなくて、特に自閉的な人の場合、プリントの上で正解ができても、それは定型的な意味で分かったのではないのだと考えられます。

すごく大雑把に言うと、紙の上で書かれたことを見て「頭で理解」できても、どうも感覚的にぴんと来ていないという感じでしょうか。

だから実際の複雑な場面になると、ポイントがよくわからなくなるわけです。

「違う見方をしているのだ」という可能性

ポイントがわからなくなるというだけではなく、そもそもなんでそんなことをしなければならないのかが理解できない場合もあるようです。

こう書くと自閉系の人はやはり理解力がないと思われるでしょうか。

たしかにそうも言えなくもないのですが、でもそう言ってしまうと大事なことが見落とされます。

前回の中学生のエピソードも実はそういうもので、彼がそういうふるまいをしたのには、彼なりの理由があるのです。

ただ私たちがその理由に気付く力を持っていないだけのことです。

ということで、自閉症者が定型発達者を理解しなければならないように、実は定型発達者も自閉症者をもっと理解する必要がある、という発想で行われるのがSSTの逆方向、つまり逆SST(Social Skills Training- reversed)というわけです。

この逆SSTでは、当事者の人に、なかなか周囲に理解してもらいにくい自分の振る舞いを例に挙げてもらいます。

そしてどうしてその人がそういうふるまい方をするのか、その理由をみんなで本人に質問しながら推理するんですね。そして当事者にその思いを解説してもらうというわけです。

7分程度の動画ではそのような逆SSTの発想について解説をしていますのでご覧ください。

筆者プロフィール

発達支援研究所所長 山本 登志哉

障がい者は「不完全な人」ではなく「少数派の特性を持つ人」。

共生は多数派に合わせることではなく、特性を活かして一緒に生きること。

そこに生まれる困難を調整するのが支援。当事者と共にそんな模索を続けます。

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📢次回は2/5(月)「【当事者の視点で支援を考える】第3章「なぜ大内さんはわざわざ支援中にトイレに行くのか?」」について掲載予定です

毎週、お会いできることを楽しみにしています。

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