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「なぜ大内さんはわざわざ支援中にトイレに行くのか?」

コラム「障がい」と「仕事」

当事者の視点で支援を考える 第3章  
「なぜ大内さんはわざわざ支援中にトイレに行くのか?」

2024.02.05

視点のズレ「違う見え方をしている」

前回の第3章では発達障がい「当事者の視点」注目して、障がい特性として自閉的な人と定型である人のお互いの視点のずれを調整することに触れました。

自閉系の人は理解力がないと思われがちですが、「違う見方をしているのだ」という可能性を感じると、ただ定型である私たちがその理由に気付く力を持っていないだけのことであることがわかりました。

ではどうやったらもう少しその世界を理解する力を養えるでしょうか。また違う事例で考えてみましょう。

自閉症当事者大内さんは 自閉的な人と通じ合える

自閉症スペクトラムの診断を受けている大内雅登さんは、放課後ディサービスのこどもサポート教室「きらり」で指導員としてこどもの支援に関わられています。

「自閉症を語りなおす:当事者・支援者・研究者の対話」(新曜社)にも紹介されている大内さんの支援は、私には神業のように思えるのですが、なにしろ周囲が理解できず、対応の仕方もわからない発達障がいの子どもと、すっ…と通じ合ってしまうんです。

たとえば視線もなかなか合わず、言葉かけにも応じてくれず(指示が通らない、とよく言われます)、言葉も出ていない重い自閉の子が、大内さんと手をつないで散歩に行って帰ってきてから「座って」と椅子のところに連れていかれると、すっ…と座ってしまったというエピソードもあります。

つい最近も、いくら言われても病院に行かないで周囲が困っていた年配の男性が、大内さんの声掛けですっ…と行ったということがあったらしく、どうしてそんなことができたのか、お医者さんの集まりに呼ばれて説明を求められたこともあったとのことでした。

話を聞いてお医者さんたちも感心されていたようです。

なぜ大内さんは わざわざ支援中にトイレに行くのか?

さてその大内さん、やはりご自分の行動の意味を周囲の人たちが理解してくれない(誤解される)という場面を繰り返し経験しています。

そのひとつに大内さんは、放課後ディサービスで勤務中に子どもの支援の合間の休憩時間ではなく、わざわざ支援中にトイレに行くのだそうです。

なんででしょう❓

次の動画はそのことを問題として行われた※逆SSTのサンプル動画です。15分ほどのものですが、どうぞみなさんも挑戦してみてください。

果たしてみなさんは大内さんがそういうふるまいをすることの意味を理解することができるでしょうか❓

どうですか❓

すぐにわかったかたはすごいと思います。

私が知る限り、こういう問題に「正解」できる人はほとんどいません。

私も今までさんざんいろんな問題を出されて考えましたが、よくて半分くらいまでの正解で、ほとんど的外れになります。

最近ようやく一問ほぼ完全に正解できて大喜びといった状態です。

私も一応発達心理学の専門家ということになっているのですが、そんな体たらくですし、「心の専門家」みたいに言われている臨床心理士の方や、発達障がい関連で授業などもされている大学教授の方などにもいくつかの逆SSTに挑戦してもらったりしてみましたが、だれも正解できませんでした。

ディスコミュニケーションの心理学 「理解できるが気づけない」

定型と自閉ではどうも発想の仕方にかなり深いところでズレがあるようなのです。

だから解説を聞くと「え❓そこなの❓」とびっくりします。

まさかそこがポイントだとは想像もしなかった、という感じです。

「自閉症を語りなおす」の執筆に参加してくれた青山学院大学の心理学者で、昔からの私の共同研究者として、「ディスコミュニケーションの心理学:ズレを生きる私たち」(東京大学出版会)という本を一緒に出したりもした高木光太郎教授は、その感じを実にうまくこんな風に表現してくれました(p.191)。

「理解できるが気づけない」

次回はもう一つのサンプル動画をご紹介しましょう。

やはり自閉当事者で、かつ学生起業家として活躍されている森本陽加里さんが出題者です。

もしかすると大内さんの話より、もう少し理解しやすいように感じられるかもしれません。

筆者プロフィール

発達支援研究所所長 山本 登志哉

障がい者は「不完全な人」ではなく「少数派の特性を持つ人」。

共生は多数派に合わせることではなく、特性を活かして一緒に生きること。

そこに生まれる困難を調整するのが支援。

当事者と共にそんな模索を続けます。

📢次回は2/12(月)「【当事者の視点で支援を考える】第4章「自閉当事者の思いに迫る逆SSTへの挑戦」」について掲載予定です

毎週、お会いできることを楽しみにしています。

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