コラム「障がい」と「仕事」

障がい者雇用を進めるもの

2023.10.09

障がい者雇用拡大の現状は?

次のグラフは発達障がいを含めた精神障がい者の医療機関への外来数が年を重ねることにほぼ単調に増加する様子を表したものです。
2017年で人口の3%程度になっています。
これは外来数で、実数が増加しているというより、おそらくは障がいへの社会的認知が進むとともに、自分のつらい状態に精神障がい・発達障がいの可能性を感じて受診する方がそれだけ多くなってきているからという理由がより大きいのではないかと思います。
実際文科省が2002年に初めて実施した調査では、発達障がいの可能性のある子どもだけで6.3%とされていて、仮にその半分程度が潜在的に支援が必要な程度に困難が大きいとしても、それだけでこの外来数の割合を超えてしまいます。

年齢階層別障害者数の推移(精神障害者・外来) 

出典:令和2年版 障害者白書

年齢別にみてみると、高齢化社会で高齢者の比率が多くなっているのは当然として、そのほか特に働き盛りの年代での増加が目立っているように見えます。
全体としての人口も減少する中で、社会の経済活動を支える人々の間に精神的な困難を抱えて何らかの支援を必要とする方たちが増加していることはやはり深刻です。
これらの方たちは就労との関係では次のように三つに分けて考えることができるでしょう。
①医療や福祉などの支援を受けながらなんとか働けている方たち(働き方は自営のほか、一般雇用、障がい者枠雇用、就労継続支援A/B型)
②就労に向けた支援を受けているがまだ就労にまでは至っていない方たちや(就労移行支援)、支援を受ければ働ける可能性があるが、適切な支援がないためにまだ働けていない方たち。
③困難が大きいために少なくとも当面は就労を考える状態になく、在宅などの状態を続けられている方たちです。
このうち①は必要に応じてた就労支援の対象となる方たちで、②は就労移行支援の対象となる方たち、③の方の中には就労移行支援の事業所に通われている方もあるかと思いますが、在宅その他の状態で福祉を受けられていたり、あるいは適切な支援がまだ受けられない状態になっている方たちが中心となるでしょう。
ご存じのように現在の国の施策では、職場での合理的配慮を推進することで①に該当する方たちをどれだけ増やせるのかが課題となり、一定以上の規模を持つ企業に障がい者雇用を義務づける制度を作り、またその法定雇用率を少しずつ増やすことになっているわけですが、次のグラフを見ても、そのような施策の元で実際に障がい者雇用が17年間で2.3倍近くに増加していることが確認できます。

民間企業における障害者の雇用状況

実雇用率と雇用されてりる障害者の数の推移

その増加の仕方について内訳を見ると、最も伸び率が大きいのが精神障がい者で、知的障がい者がそれに続きますがやや増加のスピードは緩くなっており、身体障がい者については頭打ちになってきているようです。
当初身体障がいの雇用が進みやすかったのは、何ができて何が無理なのか、その障がいの内容が目に見えることが多いので、企業としても合理的配慮の工夫をしやすかったためと思います。
また知的障がいについては少し付き合っていけばどの程度の理解力を持たれた方かは比較的わかりやすく、たとえば9歳レベルの知能を持たれている方であれば、小学校低学年の子どもに可能な範囲の仕事をイメージすれば割合に対応がしやすくなるといった形で、こちらも「見えやすく合理的配慮がしやすい障がい」ということになるでしょう。

これに対して精神障がい(発達障がいを含む)は一見その特徴が見えにくい場合が多く、ずっと付き合っていく中でそのふるまい方に「あれ?」と思うことが重なる、といったケースが多いように思えます。
でもなぜそういう振る舞い方をするのかの理由がよくわからないために、どう対処すれば問題が解決できるのかが見えにくくなります。
そこではお互いの間のコミュニケーションのむつかしさが大きな課題となりますが、現在雇用者の比率が一番拡大しているこの方たちとの関係調整が就労移行支援や就労支援にとって一番の工夫のしどころということになるでしょう。
また、次の企業規模別達成企業割合の表を見ると、全体平均が徐々に増加しながら令和4年は5割弱まできていますが、企業規模によって明らかに達成率に差があります。
当初最も成績が悪かった1,000人以上の規模の企業は、波は割合大きいものの平成20年頃を境に急速にその割合を伸ばしています。
それに続く成績を示しているのは100-300人規模の会社で、意外に500-1,000人規模の企業はほぼ全体平均を下回る状態が続いています。

企業規模別達成企業割合

いずれにせよ大きな傾向としては規模の小さい会社はやはりなかなか達成率が低くなる傾向ははっきりしていることが分かり、今後規模の小さな企業でどう障がい者雇用を支援していくかが大きな課題になっていることも見えます。
企業規模によって雇用率に違いがあるのは、一般的には大きな企業ほど「余力」があるため、障がい者雇用の支援に回せる人的・物的な資源をねん出しやすいことが大きいだろうと想像できます。
そのため、より規模の小さい企業については単独ではなく、何らかの形で共同して支援する工夫が大事になると考えられます。

また障がい者雇用を安定化させていくにはこのグラフに既に示されている①の方たちへの支援が重要になりますが、全体でも達成率がまだ5割程度の雇用状況をさらに向上させていくには、当然このグラフには現れていない②に該当する方たちへの支援の仕方の工夫が特に重要になります。
では、この②に該当すると考えられる方たちが抱えている困難とはどういうものでしょうか。
またその方たちがより前向きに雇用に向けて歩みを進めていくには、どういうことが大事になるのでしょうか。
長い引きこもり状態を抜け、だんだんと社会に向けて前向きに歩み始められた方たちとの対話の中で、私が学んできたことについて少し書いてみたいと思います。
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筆者プロフィール
発達支援研究所所長 山本 登志哉

障がい者は「不完全な人」ではなく、「少数派の特性を持つ人」。
共生は多数派に合わせることではなく、特性を活かして一緒に生きること。
そこに生まれる困難を調整するのが支援。当事者と共にそんな模索を続けます。

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📢次回は10/16月曜日

 【障がい者が雇用に向かう力:「人が前向きになれるには?」】について掲載予定です。

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