コラム「障がい」と「仕事」

障がい者雇用を進めるもの -part2-

2023.10.16

障がい者が雇用に向かう力:人が前向きになれるには?

前回は障がい者雇用の現状をグラフ化し、全体でも達成率がまだ5割程度の雇用状況の現実について書きました。
今回は、就労移行支援での現場と当事者の気落ちの変化について考えてみます。

職業準備性ピラミッド=技能的な要素

就労支援で必要な理解のひとつとして、「職業準備性についてのピラミッド」という考え方があります。
就労が可能になるには、どんな準備が必要かということについて、体の管理から順に日常生活の維持、職業生活上の基本的な態度、そして具体的な職務上の技能まで、基礎から応用までを積み上げる形で説明するもので、とても分かりやすい図になっています。

厚生労働省:職業的アセスメントハンドブック

前向きな気持ち=心の要素

けれどもそういう「技能」面の積み上げを実際に達成していこうとしたとき、この図にはうまく表されていないけれどもとても大切なもうひとつの基本的な要素があります。
それは今のステップから次のステップに頑張って進んでいこうとするときに欠かせない「前向きな気持ち」です。

その「前向きな気持ち」を就労支援の中で障がい者ととうまく作り上げることができれば、あとは必要な技能の習得に向けて一緒に頑張れるようになります。

しかし、実際の支援現場ではそもそもその点で障がい当事者がなかなか前向きになってくれないために苦労されている話をよく聞くのです。
ではなかなか前向きになれない人が前向きになれるには、どういう条件が必要なのでしょうか。

言い換えれば前向きになれない人はなぜ前向きになることがむつかしいのでしょうか。 

対話型の支援で気持ちの変化が

私は重度の身体障がいや知的障がいを抱えた方や精神障がいや発達障がいの診断を受けた方など、支援を必要とする方たちに、それぞれの条件に合った形でいろんな種類の学びの場を提供する「みんなの大学校」でzoomによる遠隔授業を担当しています。

そこで私が授業を担当しながら学んだことや、その他の障がい当事者とのお付き合いの中で教えてもらったことなどからこの問題について少し考えてみたいと思います。

その授業は、「対話と支援」というのですが、受講者から先日こんな感想が寄せられていました。

「私は苦しい時に、悩みを共有して頂き、話をよく聞いてもらいました。時間はかかってしまいましたが、十分な休養を取ることもできました。時間の経過とともに、正面でぶつからずに、一歩引いて考えてみる、立ち止まる、視野を広くとる、押し引きできるようになったかもしれません。話をよく聞いて、まだまだですが、自分が自分がではなく、相手の立場も考慮するようになりました。」

この方は大学を出て一般企業に就職されたあと、苦労されて就労を継続できず、うつ病になって引きこもり状態が続いた方です。

現在も基本的には自宅で生活をされていますが、今年になって「対話と支援」の授業に参加され始め、毎回熱心に受講し、またご自分の意見を述べてくださっています。

みんなの大学校 授業の変化

これまで私が担当した授業は「発達心理学」「心のしくみ」「ディスコミュニケーション論」「障がい者支援論」「対話と支援」といった内容です。

参照元:一般社団法人みんなの大学校

ある時は重い知的障がいを伴った重度の身体障がいの方も受講されたことがあって、そう言う方との交流も楽しかったとはいえ、やはり授業の内容をある程度理解しながら積極的に参加できるには高校生以上くらいの理解力が必要になります。

中には有名大学を出て一般企業で頑張ってこられた経験を持つ方も参加されています。
つまり受講生は、就労移行支援の対象となる方たちに該当するような位置にいらっしゃる方たちと考えられます。

「みんなの大学校」の私の授業は、最初のころは大学の基礎的な科目で話すような内容を、できるだけわかりやすく説明するような内容が中心でした。

しかし、毎回書いてもらう感想や意見を次の授業で取り上げて丁寧に応答しながら、私自身受講生の皆さんから学ぶことを続けているうちに、ごく自然にむしろ受講生とのやりとり、まさに「対話型」中心の授業に変わっていきました。

来週は 対話の中で見つかること、「みんなの大学校」の授業風景について書いてみたいと思います。

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筆者プロフィール
発達支援研究所所長 山本 登志哉

障がい者は「不完全な人」ではなく、「少数派の特性を持つ人」。

共生は多数派に合わせることではなく、特性を活かして一緒に生きること。
そこに生まれる困難を調整するのが支援。当事者と共にそんな模索を続けます。

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📢次回は10/23(月)「対話の中で見つかること」について掲載予定です

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